月光とピエロ

いよいよ明日がコンサート本番だ。
旭川、札幌、小樽の男声合唱団がそれぞれの合唱を披露する。
その後、合同合唱をする。
合同合唱がシューベルトの男声合唱曲集からであることは前に書いた。
我々、大雪山麓男声合唱団の単独演奏の曲は「月光とピエロ」である。
日本の男声合唱としては古典的な曲だ。
今回、私がプログラムの解説を書いた。
2000文字と1400文字の2バージョンを書いたが2000文字のほうが採用された。
以下にご披露して今日のブログとする。

「月光とピエロ」について

  男声合唱組曲「月光とピエロ」は、1948年にまず先に2曲目の「秋のピエロ」が全日本合唱コンクールの課題曲として発表された。そして翌年の1949年12月、作曲者の清水脩自身が主催し指揮する東京男声合唱団によって全5曲の初演が行われた。当時は合唱曲といえばほとんどが外国曲であり訳詞で歌うこと がほとんどだった。邦人の合唱曲といっても戦前からの小学校向けの二部合唱か中学校の三部合唱程度のもので、日本の詩による本格的な合唱曲はほとんどないというのが現状だった。今でこそ合唱を書く作曲家は多いが、当時は作曲家が積極的にアマチュア向けに合唱曲を書くということがなかったのである。清水は「合唱はことばがあるかぎり、日本人には日本語のうたがなくてはならぬ・・・」と、若手の作曲家に男声合唱曲を依頼したり、自らも合唱団のために作曲をし始めた。そうして誕生したのが「月光とピエロ」であった。
 清水脩は単に合唱だけの作曲家ではない。5つの交響曲と10のオペラを作曲している本格派の作曲家である。そのような作曲家が男声合唱という特殊とも思える分野の作曲をしたのは早くからその魅力を熟知していたからに他ならない。福永陽一郎氏の言葉を借りれば「古今東西をつうじて、良い男声合唱が、他の分野にくらべて、その数を誇ることができないでいるのは、男声合唱が魅力の少ない音素材で あるためではなく、成功した作品を書き上げることが困難であるという理由による。」とし、さらに「男声合唱のスペシャリスト・多田武彦を除くと、清水脩ほど男声合唱のよい響きを自由に使いこなした作曲家は、日本ではほかにいない。<中略>それは、比較的初期の作品である男声合唱組曲『月光とピエ ロ』のときから確立していた作曲家・清水脩の群を抜いた特性である。」と書いている。
 また、この作品でとられた「合唱組曲」という形式は、現在では当たり前のものとして受け入れられているが、女声混声を問わずこの作品によって世界で初めて用いられた手法である。「月光とピエロ」は邦人合唱曲がこ こからスタートしたといっていいほど記念碑的な作品であった。それが男声合唱であったということはわれわれにとっても意義深い。清水脩には400を超える 合唱作品があるがその約半数は男声合唱である。日本の男声合唱を語る上で清水脩は最初に名前が上がる作曲家であることは間違いないところである。
  この作品の詩は堀口大學による同名の詩集からとられた。大學は一般的 にはフランス文学の翻訳家として知られるが、数多くの詩や短歌を残している。詩集「月光とピエロ」は彼がブラジル滞在時の1919年(大正8年)、28歳の時の処女詩集であり最初の文学作品でもある。大學は外交官であった父とともにベルギー、スペイン、ブラジルに滞在しており、そのときの経験や文学的な体 験が色濃く反映している。
 この詩集は全11章からなるが、曲がつけられた作品は4曲目の「ピエロの嘆き」のみが第2章の「EX-VOTO(ささげ物)」からで他の4曲は第1章の「月光とピエロ」の6編の中から選ばれている。いずれもピエロの悲哀を表現したものだ。この詩は大學自身の実体験に基づ くものでピエロは大學自身ではないかという説もあるが、詩が非常にシンプルであることや芝居の一場面を切り取ったような表現からすると、ヨーロッパで古く から伝わる演劇に登場するピエロを表現したものではないかと思われる。芝居の中でピエロはコロンビイヌやピエレットに相当する女性に恋をするが振られてしまうような役回りである。ピエロとは常に哀しみを背負った存在なのである。しかし、この詩だけを読んでみると、文語体であることもあるが、深い哀しみがダイレクトに伝わってくることはない。詩から見えるのは映像的な場面であり、月明かりに向かって涙するピエロの姿である。それだけに、あの短い詩から感情豊かな音楽表現が生まれてきたことに驚きを覚えるほどである。合唱組曲「月光とピエロ」から伝わる情感や叙情性は作曲に負うところが大きいのである。
  初演からすでに62年の歳月が流れようとしている。しかし、現在もこの曲が色褪せることは全くない。何度歌っても新たな発見があり、新たな難しさが生まれてくる。今回20名足らずでこの曲に挑むことになった。勝手知ったる曲ではあるがトップテノールの音も高く表現の繊細さも並の難しさではない。新境地を開けるのか、はたまた玉砕となるのかじっくり聴いて判断していただきたい。


1111月01
去年、撮った月写真。

EOS 30D
EF70-300mm F4-5.6 IS USM
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